この記事に書いてあること
- スタートアップや中小企業にとって、特許・商標出願は重要な経営投資であり、将来を見据えた戦略的判断が求められる。
- 売上高先行投資比率を用い、売上規模に対して知的財産投資が過大にならないよう注意することが勧められる。
- 商標は「登録」ではなく実際の使用によって価値を持つため、使用実績の管理が重要である。
- 資金調達では出願件数の多さよりも、事業の中核に直結する知財の質が評価される傾向にある。
- 出願の要否判断と使用証明を組み合わせた知財戦略が、中小企業の持続的成長につながる。
目次
はじめに
スタートアップ企業や中小企業にとって、特許出願や商標出願は、事業の将来を左右する重要な経営判断です。
一方で、「出願しておかなければ不安」、「とりあえず数を確保しておく」といった判断が、売上や事業フェーズと乖離した過剰投資になってしまうケースも少なくありません。
本記事では、売上高先行投資比率という経営学の視点を軸に、さらに 「実際に使われているか」「その使用を証明できるか」 という観点を加えながら、スタートアップ・中小企業にとって合理的な特許・商標戦略を整理します。
売上高先行投資比率とは何か
売上高先行投資比率の基本概念
売上高先行投資比率とは、売上が十分に発生する前に行われる投資が、売上高に対してどの程度の割合を占めているかを示す考え方です。
ここでいう先行投資には、一般に次のような支出が含まれます。
- 研究開発費
- 知的財産関連費用(特許出願費用、商標出願費用など)
- 設備投資
- 新規事業立ち上げに伴う人材投資
いずれも、将来の売上や利益を生み出すことを期待して先に支出される投資です。
なぜ売上高先行投資比率が重要なのか
売上高先行投資比率が重要とされる理由は、企業の資金繰りと経営の持続可能性に直結する指標だからです。
先行投資は成長のために不可欠ですが、投資回収が不確実である、回収までに時間がかかる、売上が計画通りに立ち上がらない可能性があるという性質も併せ持っています。
売上規模に対して先行投資が過度に大きい状態が続くと、キャッシュフローが不安定になる、事業修正や追加投資の余地が小さくなる、経営判断の柔軟性が失われるといった問題が生じやすくなります。
フェーズによって許容水準は変化する
売上高先行投資比率は、企業の成長フェーズによって許容される水準が異なります。
開業直後・スタートアップ初期
このフェーズでは、売上がほとんど存在しない、事業モデルがまだ固まっていないという状況が一般的です。
そのため、売上高先行投資比率が高くなること自体は、必ずしも問題ではありません。
ただし、どこまでを許容するのか、いつまで高い状態が続くのかについて、経営者自身が認識しておくことが重要です。
売上立ち上げ期・成長初期
売上が立ち上がり始めると、売上高先行投資比率は、徐々に引き下げていくことが求められます。
この段階では、先行投資が実際に売上に結び付いているか、投資内容が事業の中核に集中しているかを定期的に見直す必要があります。
知的財産投資についても、「今の事業に本当に必要か」という視点が不可欠になります。
企業初期フェーズで「本当に必要な出願か」を考える
知的財産訴訟を前提とした出願の現実
特許や商標を、将来の知的財産訴訟に対する防御策として出願する、という考え方があります。
しかし、実務上は次の点を考慮する必要があります。
- 知的財産訴訟の弁護士費用は極めて高額である
- 原告側も費用対効果を慎重に検討する
- 被告企業の売上規模が小さい場合、訴訟提起の動機は弱い
そのため、売上規模が小さい企業に対して、積極的に訴訟が提起されるリスクは相対的に低いと評価できるケースも少なくありません。
「訴訟対策だから」という理由だけでの出願は、必ずしも合理的とは言えません。
事業実施を守るための別の選択肢
事業を安心して継続する、という目的に限れば、出願以外の手段が有効な場合もあります。
例えば、技術情報やブランド使用状況について確定日付を取得する、将来、先使用権や使用実績を主張できる状態を整えるといった対応は、コストが低い、初期フェーズに適している、売上高先行投資比率を過度に押し上げないという点で、有効なリスクヘッジになり得ます。
商標は「使用されて初めて価値を持つ」
商標権と使用の関係
商標は、実際に使用されて初めて意味を持つ知的財産です。
使用されていない商標、使う予定が不明確な名称を多数出願することは、経営資源の観点から必ずしも合理的とは言えません。
使用証明としての「確定日付付き文書」の重要性
商標について重要なのは、「いつから、どのように使用していたか」を説明できることです。
この点で、確定日付が付与された文書は極めて重要な意味を持ちます。
確定日付付き文書があれば、商標をいつから使用していたか、出願前・登録前から使用していた事実、使用の継続性を、客観的に証明しやすくなります。
これは、先使用権の主張、不使用取消審判への対応、商標紛争における使用実績の説明、といった場面で、非常に有効な証拠となります。

出願しない場合でも意味を持つ「使用証明」
重要なのは、商標出願をしていない場合でも、使用証明には価値があるという点です。
すぐに出願しない、将来の事業展開を見て判断したい、という場合であっても、ウェブサイト、パンフレット、契約書、提案資料などについて、確定日付を付与しておくことで、後日のリスクを大きく下げることができます。
資金調達と特許・商標の位置づけ
ベンチャーキャピタルからの資金調達を行う場合、特許や商標は、技術や事業の独自性を説明する材料、議論の前提条件として一定の役割を果たします。
ただし、実務上は、広範な権利網、多数の出願件数よりも、事業の中核に関する最低限の出願、使用実態や将来計画との整合性が重視されることが多いのが実情です。
「出願しない判断」も経営戦略である
特許・商標については、出願する、出願を見送る、使用証明を重視する、のいずれも、正当な経営判断です。
重要なのは、なぜ出願するのか、なぜ今は出願しないのかを、経営判断として説明できる状態にしておくことです。
まとめ
- 特許・商標は経営投資である
- 売上高先行投資比率を無視した出願はリスクが高い
- 商標は使用されて初めて価値を持つ
- 使用証明として確定日付付き文書は極めて有効である
- 出願しない判断も、重要な戦略である
スタートアップ・中小企業にとって、知的財産戦略は経営戦略そのものです。
事業フェーズと売上を踏まえ、「出願」と「使用証明」を適切に組み合わせた無理のない知的財産戦略が、長期的な成長につながります。
この記事を書いた人

渡辺浩司 (Koji Watanabe)
東京知的財産コンサルティング事務所(Tokyo IP Consulting)代表弁理士。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了、同博士課程中退。2006年より弁理士。特定侵害訴訟代理業務付記。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。2014年にドイツ連邦共和国 Eisenführ Speiser・大韓民国YOU ME特許法人インターン。複数の大手特許事務所・特許法律事務所に勤務。都内特許事務所所長代理。独立行政法人日本貿易振興機構イノベーション・知的財産部出向。外資系設計会社財務法務担当取締役等を経て東京知的財産コンサルティング事務所設立。現在、プログラマーとしても活動中。主要取扱言語は、Web系言語全般、ruby、PHP、Python等。
Reference
- 特許庁, 「先使用権制度の円滑な活用に向けて―戦略的なノウハウ管理のために―(第2版)」(2022年4月) [Link]
Disclaimer & Disclosure
- この Webページはもともと日本語で作成されており、Google Translation API を利用したプラグインを使用して他の言語に翻訳されています。翻訳は参考のためにのみ提供されており、ここに記載されている意見や声明は元の日本語で解釈されるべきであることをここにご通知します。
- このレポートは情報提供のみを目的として提供されており、特定の金融商品への投資を勧誘したり、それらの購入又は売却を推奨したりすることを意図したものではありません。
- このレポートにおける企業の経営戦略の説明は、投資、会計、税務、法律等に関するなんらの助言を構成するものとも解釈されるべきではない点にご注意をお願いいたします。したがって、このレポートを読んだ投資家又は事業者が、投資又は事業活動により如何なる損失を被ったとしても、東京知的財産コンサルティング事務所 (Tokyo IP Consulting) は一切の法的責任を負うものではありません。個別の投資、会計、税務、法律等のご相談は、対象地域を管轄する投資、会計、税務、法律等の専門家の助言を受けていただきますようお願い致します。
- このレポートに記載されている意見や声明は、筆者の個人的かつ主観的な見解に基づくものであり、筆者の所属する組織の公式見解ではありません。さらに、企業の戦略を正確に評価するために最善を尽くしていますが、このレポートの完全な正確性を保証することはできません。加えて、このレポートに記載されている将来の予測が確実に実現することを保証するものでもありません。
