アスリートのブランド戦略|競技成績をスポンサー価値・キャリア価値につなげる

この記事に書いてあること

  • アスリートのブランドは、競技成績だけでなく、競技への姿勢、専門性、地域との関係、情報発信などから形成されます。
  • ブランド戦略は、スポンサー契約、競技指導、講演、イベント出演などの機会を広げ、スポンサー料や指導料、講演料などを含むアスリートの収益力を高める可能性があります。
  • 一方、ブランドにはvolatility(変動性)があり、不祥事や不適切な言動などによって社会的信用が損なわれれば、ブランド価値や収益性が短期間で大きく低下する可能性もあります。
  • そのため、ブランド価値を高めるだけでなく、社会に対する責任を意識して信用を維持し、現役中から引退後まで活用できる長期的なブランド資産を形成することが重要です。

目次

  1. はじめに
  2. 競技成績はブランドの重要な証拠になる
  3. ブランド戦略はアスリートの収益力を高める可能性がある
  4. ブランドは価値を生む一方で、毀損しやすい
  5. ブランドを守ることと社会に対する責任
  6. スポンサー価値はフォロワー数だけでは決まらない
  7. 公式WebサイトとSNSを役割分担する
  8. 引退後にも残るブランドを作る
  9. Tokyo IP Consultingの考え方
  10. まとめ

はじめに

アスリートの価値は、順位や記録だけではありません。競技に取り組む姿勢、専門知識、地域やファンとの関係、発信内容なども、その選手が社会からどのように認識されるかに影響します。

では、アスリートが時間や費用をかけてブランド戦略に取り組むことには、どのような意味があるのでしょうか。

一つの重要な観点が、アスリート自身の収益力との関係です。

競技成績が優れていても、その実績や人物像、社会的な活動、スポンサーに提供できる価値などが十分に伝わっていなければ、スポンサー候補企業や講演・イベント等の依頼者が、その選手の価値を評価することは容易ではありません。

反対に、競技実績だけでなく、その選手がどのような人物で、どのような分野に専門性を持ち、どのような人々から支持されているのかを整理して継続的に発信することで、スポンサー契約、競技指導、講演、イベント出演などにつながる可能性があります。

さらに、ブランドとしての評価が高まれば、単に仕事を獲得するだけでなく、スポンサー料や講演料、指導料などについて、より高い経済的価値を評価してもらえる可能性もあります。

ブランド戦略は必ずしも短期的な収益増加を保証するものではありません。しかし、アスリートが競技を通じて蓄積した実績、信用、専門性を社会的・経済的価値につなげるための手段の一つとして考えることができます。

競技成績はブランドの重要な証拠になる

自己ベスト、大会結果、代表歴などは、アスリートの能力を示す客観的な実績です。これらを正確に記録し、継続的に更新することで、選手の成長や競技レベルを第三者が理解しやすくなります。

特にスポンサー候補企業やメディア、イベント主催者などが選手について調査する場合、過去の競技実績が体系的に整理されていれば、その選手について判断するための情報になります。

一方で、競技成績だけですべてのブランド価値が決まるわけではありません。同程度の競技成績を持つ選手であっても、専門性、地域との関係、情報発信、ファンとの関係、社会的活動などによって、企業や社会からの評価が異なることがあります。

その意味では、競技成績はブランドそのものというより、アスリートのブランドを支える重要な根拠の一つと考えることができます。

競技に取り組むアスリート―スポンサー価値やキャリア価値につながるブランド戦略

ブランド戦略はアスリートの収益力を高める可能性がある

アスリートの収入源は、競技によって得られる賞金や所属先からの報酬だけとは限りません。

スポンサー契約、競技指導、講演、イベント出演、メディア出演、商品・サービスとのコラボレーションなど、競技実績や知名度、専門性を基礎として発生する収益機会も考えられます。

こうした取引では、「この選手と契約することによって、企業や依頼者にどのような価値が生じるのか」が重要になります。

例えば、特定地域との強いつながりを持つ選手であれば、地域企業にとって価値のあるパートナーとなる可能性があります。競技に関する専門的な知識や経験を継続的に発信している選手であれば、講演や競技指導において、その専門性が評価されることも考えられます。

ブランド戦略によって、このような価値を明確にして第三者へ伝えられるようになれば、仕事を得られる可能性だけでなく、スポンサー料、講演料、指導料などの価格を検討する際にもプラスに働く可能性があります。

つまり、ブランド戦略は単なる知名度向上策ではなく、アスリートが自らの競技実績や専門性を経済的価値につなげ、収益力を高めるための基盤の一つとして位置付けることができます。

ブランドは価値を生む一方で、毀損しやすい

ブランドについて考える際には、価値を高めることだけでなく、ブランド価値が必ずしも安定したものではないことにも注意する必要があります。

アスリートのブランドは、競技成績、日々の行動、ファンとの関係、メディアでの評価、SNSでの情報発信、スポンサーとの関係など、さまざまな要素の積み重ねによって形成されます。

信用を築くためには長い時間を要することがあります。その一方で、不祥事、不適切な言動、虚偽の情報発信、他者の権利を侵害する行為などが発生した場合、それまで蓄積してきた信用が短期間で失われる可能性があります。

この意味で、ブランドには一定のvolatility(変動性)があります。

特にアスリートの場合、スポンサー企業は選手の競技能力だけを評価しているわけではありません。その選手のイメージ、社会的信用、ファンとの関係なども含めてスポンサーシップの価値を判断することがあります。

そのため、選手のブランドが大きく毀損すれば、スポンサー契約の終了や更新の見送り、新規スポンサー獲得の困難化、広告・イベント・講演等の依頼減少などにつながる可能性があります。

ブランドによってスポンサー料や講演料などの収益性を高められる可能性がある一方で、ブランド価値が失われれば、それらの収益が短期間で大きく減少する可能性もあるということです。

ブランド戦略には、価値を「作る」という側面だけでなく、蓄積した価値を「守る」という側面があります。

ブランドを守ることと社会に対する責任

このように考えると、アスリートのブランド戦略は広告やマーケティングだけの問題ではありません。

競技で優れた成績を残し、多くのファンやスポンサーを獲得するほど、その選手の言動が社会に与える影響も大きくなることがあります。

特にスポンサー企業との関係では、選手自身の行動が本人だけではなく、スポンサー企業や商品・サービスのイメージにも影響を及ぼす可能性があります。

そのため、ブランド価値を長期的に維持するためには、法令を守ることはもちろん、契約上の義務、他者の権利への配慮、情報発信の正確性、ファンや競技関係者との関係などについても意識する必要があります。

これは単に「炎上を避ける」という消極的な意味にとどまりません。

社会から一定の信用を得て、その信用をスポンサー契約や講演、競技指導などの経済的価値にもつなげていくのであれば、その信用に対応した社会的責任を意識することも、ブランドを維持するための重要な要素になります。

ブランド価値が高くなるほど、その価値を毀損した場合の経済的な影響も大きくなる可能性があります。したがって、アスリートのブランド戦略では、認知度や収益力を高める施策だけでなく、社会からの信用を長期的に維持するための行動も同時に考えることが重要です。

スポンサー価値はフォロワー数だけでは決まらない

スポンサー企業は、選手の知名度だけでなく、競技、地域、人物像、発信内容と自社ブランドとの相性を考えます。

もちろん、多くのフォロワーを持つことは、多数の人に情報を届けられるという意味で一つの価値になります。しかし、スポンサー契約の価値をフォロワー数だけで判断することは必ずしも適切ではありません。

例えば、全国的な知名度がそれほど高くなくても、特定の競技分野で高い専門性を持つ選手や、特定地域で強い支持を持つ選手であれば、その競技や地域を重視する企業にとって魅力的なスポンサー対象となる可能性があります。

重要なのは、「何人に届くか」だけではなく、「誰に届くのか」「どのような文脈で支持されているのか」「企業のブランドや事業との間にどのような接点があるのか」を考えることです。こうしたスポンサー企業との適合性を明確にすることも、アスリートのブランド戦略の重要な役割です。

公式WebサイトとSNSを役割分担する

SNSは日々の活動、トレーニング、大会の様子などを発信し、ファンや関係者と交流する手段として適しています。一方で、SNSでは過去の情報が時間とともに流れてしまいます。

プロフィール、自己ベスト、大会結果、スポンサー情報、メディア掲載、競技歴、講演実績などについては、公式Webサイトに体系的に蓄積することで、検索や取材、スポンサー検討時の情報源として活用しやすくなります。

例えば、企業の担当者がスポンサー候補となる選手を検討する際、その選手の公式Webサイトから競技実績、人物像、活動方針、既存スポンサー、過去の活動などを確認できれば、選手について理解するための情報を得やすくなります。

SNSによる継続的な情報発信と、公式Webサイトによる体系的な情報蓄積を組み合わせることによって、アスリートの活動を一時的な情報ではなく、長期的なブランド資産として蓄積することができます。

同時に、SNSや公式サイトで発信した情報自体がブランド評価の対象になることも意識する必要があります。発信量を増やすだけではなく、正確性や一貫性、第三者への配慮を含めて情報発信を管理することも重要です。

引退後にも残るブランドを作る

競技生活には期間がありますが、選手として蓄積した専門性や信用まで、引退と同時になくなるわけではありません。

現役時代の経験は、競技指導、講演、イベント、メディア活動、商品開発、スポーツ関連事業など、さまざまな分野へ展開できる可能性があります。

このとき、現役時代から競技実績だけでなく、専門性、活動内容、考え方、社会との関係などを継続的に発信していれば、引退後にも「その人が何を提供できるのか」を第三者が理解しやすくなります。

したがって、アスリートのブランド戦略は、現役中のスポンサー獲得だけを目的とするものではありません。競技活動を通じて得た信用や専門性を蓄積し、引退後も活用できるキャリア資産へ転換していくという長期的な意味もあります。

Tokyo IP Consultingの考え方

Tokyo IP Consultingでは、アスリートのブランド戦略を単独の広告・宣伝施策としてではなく、知的財産、ブランド、Web、情報発信、スポンサー価値、事業価値をつなぐ戦略の一部として捉えています。

ブランドはロゴや名称だけから形成されるものではありません。競技実績、人物像、専門性、発信内容、スポンサーとの関係などについて、第三者がどのような認識や期待を持つかも重要です。

そのため、商標などの権利を取得することやWebサイトを制作すること自体を目的とするのではなく、それらを使って「誰に、どのような価値を伝えるのか」を考える必要があります。

さらに、スポンサー契約や講演、競技指導などにつなげることを考えるのであれば、そのブランドがどのような経済的価値を生み得るのかという視点も重要になります。

同時に、ブランドには毀損リスクがあります。ブランドによって経済的価値を生み出すのであれば、ブランド価値を高める施策と、その信用を維持するためのリスク管理の双方を考える必要があります。

競技活動、ブランド、Web上の情報、スポンサーとの関係、そして社会に対する責任を一体として考えることで、アスリートとして蓄積した価値を継続的な活動や収益につなげられる可能性があります。

まとめ

アスリートのブランドは、競技成績だけでなく、競技への姿勢、専門性、地域との関係、情報発信、ファンやスポンサーとの関係などから形成されます。

ブランド戦略の目的は、単に有名になることではありません。競技によって蓄積した実績や信用、専門性を第三者が理解できる形に整理し、スポンサー契約、競技指導、講演、イベントなどの機会につなげることも、その重要な役割です。

さらに、ブランド価値が適切に評価されれば、スポンサー料や講演料、指導料などについて、より高い価値を評価してもらえる可能性があります。

一方、ブランドは安定的・固定的な資産ではありません。不祥事や不適切な情報発信などによって社会的信用を失えば、スポンサー契約や仕事の機会が減少し、ブランドから生み出される収益性が短期間で低下する可能性もあります。

だからこそ、ブランド戦略では「価値を高めること」と「価値を守ること」の双方が重要です。

その意味でブランド戦略は、アスリートが競技活動によって生み出した価値を長期的な資産として蓄積し、現役中から引退後までの収益力やキャリア価値を高めるとともに、その基盤となる社会的信用を維持していく取り組みと考えることができます。


この記事を書いた人

腕を組んで壁によりかかる渡辺浩司の肖像

渡辺浩司 (Koji Watanabe)

東京知的財産コンサルティング事務所(Tokyo IP Consulting)代表弁理士。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了、同博士課程中退。2006年より弁理士。特定侵害訴訟代理業務付記。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。2014年にドイツ連邦共和国 Eisenführ Speiser・大韓民国YOU ME特許法人インターン。複数の大手特許事務所・特許法律事務所に勤務。都内弁理士事務所所長代理。独立行政法人日本貿易振興機構イノベーション・知的財産部出向。外資系設計会社財務・法務担当(役員ポジション)等を経て東京知的財産コンサルティング事務所設立。現在、プログラマーとしても活動中。主要取扱言語は、Web系言語全般、ruby、PHP、Python等。 


References

  1. 事業価値向上と知的財産戦略 | 中小企業・アーティスト・アスリートに共通する「価値創造」と「価値伝達」の視点 [Link]
  2. ブランドとは何か?| ロゴや商標だけではない「選ばれる理由」の正体 [Link]

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  • このレポートに記載されている意見や声明は、筆者の個人的かつ主観的な見解に基づくものであり、筆者の所属する組織の公式見解ではありません。さらに、企業の戦略を正確に評価するために最善を尽くしていますが、このレポートの完全な正確性を保証することはできません。加えて、このレポートに記載されている将来の予測が確実に実現することを保証するものでもありません。