知的財産の価値評価 (知財価値評価) とは?

この記事に書いてあること

  • 企業の経営や先行投資の成果を評価するために、知的財産権の価値評価が必要
  • 定性評価は、特許権の強さ(法律的な観点からの評価)で、権利範囲の広さや無効になりにくさなどをスコアリングする
  • 定量評価は、特許権の経済的価値(独占事業から得られる利益)を見積もるもの
  • 価値評価手法は取引相手を理論的に納得させるためのツールであり、どの手法を採用するかは状況に応じて合理的に選択することが重要
  • 多様な評価手法を理解し、交渉のツールとして活用することが求められる

目次

  1. はじめに
  2. 知的財産権の定性評価と定量評価とは?
    1. 知的財産権の定性評価の具体的方法
    2. 知的財産権の定量評価のための3つの手法
      1. コストアプローチとは
      2. マーケットアプローチとは
      3. インカムアプローチとは
  3. どの価値評価手法が最も合理的か

はじめに

最近、知的財産・知的財産権の分野で、「知財価値評価」という言葉が注目を集めています。この知財価値評価とは一体どのようなものでしょうか?また、なぜ、知的財産の価値評価を行う必要があるのでしょうか?

一般に、知的財産・知的財産権は「無形固定資産」と呼ばれる資産に分類されます。これは、無形資産と固定資産の両方を組み合わせた特性を持つ資産です。このうち、無形資産の無形とは、資産を視認することができない、物理的な実体を持たない、という特徴を表しています。また、固定資産は、流動資産の対義語であり、流動性が低く、これを現金化するには長い時間が必要となる、という特性を持ちます。このように、物理的な実態を持たない資産であり、なかなか現金化できない資産である、知的財産・知的財産権ですが、そういった性質のために知的財産・知的財産権の評価が難しい、という特性があります。

しかし、知的財産・知的財産権は、いずれも、先行投資の成果物等として得られていくものです。このため、知的財産・知的財産権の価値が分からない、ということになると、どのようにして先行投資の成果を評価していくか、ということが曖昧になったり、分からなくなったりすることがあります。

一般に、どのような活動を行う場合においても、PDCAサイクルなどにより、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のようなステップを繰り返していかないとならない、と言われています。つまり、知財価値評価というプロセスは、そのうちの評価(Check)を構成するプロセスの一つとなっているのです。

よって、企業が経営をしていくにあたって、そういった先行投資の成果物の価値を見定めていくためには、どうしても、価値評価というプロセスを踏んでいく必要があるのです。また、企業がより成果の得やすい先行投資の方法を検討するにあたっても、定期的に知的財産・知的財産権の価値を評価していくことが重要になります。

知的財産・知的財産権の価値評価については、大きく分けて、定性評価と定量評価に切り分けられます。

知的財産権の定性評価と定量評価とは?

例えば、特許権を例にとって考えると、知的財産権の価値という場合には、訴訟になったときにどの程度の額の損害賠償を得ることができるかとか、どれほど、特許無効審判に耐えられるか、というような、法律的な観点からの評価が考えられます。これは、法律的な観点からの特許権の「強さ」の評価であり、俗に、「定性評価」と呼ばれています。

一方、例えば、特許権は、特許発明の事業としての実施を実質的に独占できる権利を権利者に与えるものです。そして、いわゆる、独占権として特定の事業を実施することにより、市場競争・価格競争を回避できるため、通常の事業の実施よりも高い利益を得られる場合があります。このような、独占事業の実施により得られる利益の額(経済的価値)を見積もるものが、「定量評価」と呼ばれるものです。

また、会社合併や事業売却の場面では、合併・売却前の会社が保有する知的財産・知的財産権が、実質的に売却されることにもなります。例えば、特許権を売却するときに、果たして、どのくらいの価格で特許権等の知的財産・知的財産権を売却するか、という問題を考えるのも「定量評価」の一つの命題です。

なお、通常、合併などの場合は、事業全体/企業全体に対して、価値評価がなされ、事業全体/企業全体に対して値付けが行われます。そうであったとしても、企業・事業を買収したあと、個別の資産を買収会社の貸借対照表に記載する場合には、個別に価格を決められる資産は、できる限り、価格を決めなければならない、と言われています (Purchase Price Allocation)。ですので、企業の買収や事業の買収の側面においても、知的財産権の評価が行われることがあるのです。

書類に文字を書いているスーツの男性の写真

知的財産権の定性評価の具体的方法

知的財産権の定性評価を、特許権を例にとって説明してみます。例えば、特許出願明細書、特許請求の範囲、審査経過書類などの各種書類を、弁理士などの知的財産の専門家が検討し、権利範囲の広さ、権利の無効になりにくさ、権利行使の容易性、発明の革新性などを3段階や5段階の評価枠でスコアリングし、そのスコアを総計して特許権全体での定性評価のスコアを算出します。場合により、このスコアから一定の定数を導出し、一般的な特許権の経済的な金額と掛け合わせて、その金額の多寡について評価することもあります。

知的財産権の定量評価のための3つの手法

では、知的財産権の定量評価はどのように実施されているのでしょうか。一般に、知的財産権の定量評価は、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、の3つの手法により実施できる、と言われています。これら、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、の3つの手法にも、それぞれさまざまな手法が存在しますが、今回は、代表的な手法についてご紹介いたします。

手法内容価値評価における長所・短所
コストアプローチ再構築にかかるコストから価値算定算定基準がわかりやすい。
売買価格に見合う利益が得られるか不明。
マーケットアプローチ取引市場における一般的取引価格から価値算定価格決定手法として信頼性が高い。
先行する取引事例が不足。
インカムアプローチその資産から将来得られるキャッシュフローから価値算定評価手法として経済的に合理的。
将来の予測に基づく評価。

コストアプローチとは

まず、コストアプローチは、原価法とも呼ばれる方法です。コストアプローチの中では、ある資産を、現時点で再度生み出そうする場合に、必要な費用を積算して、価値評価を行う、とする方法が代表的です。例えば、特許権を代表する知的財産権の場合、少なくとも一部の研究開発費用がまず、知的財産権を入手するための費用として挙げられます。このような研究開発費用には、実験設備の利用費用や、研究開発員の人件費などが含まれます。ただし、研究開発費用は、あくまで、製品販売のための先行投資費用でもあるため、全ての研究開発費用が知的財産権の価値に帰属しない、とも指摘されます。

さらに、知的財産権の出願に要した人件費や、弁理士費用等の外注費、特許庁の特許印紙代等についても、知的財産権を入手するために必要な費用の一つです。このため、これらの費用をすべて合算し、コストアプローチによる知的財産の価値の算定根拠とすることがあります。

コストアプローチは、後述するインカムアプローチに比べ、計算が簡単で客観的である、という利点があります。しかしながら、知的財産権の種類により、コストアプローチで算出した知的財産権の価値が、必ずしも実際の経済的価値に見合わないこともあると言われています。

マーケットアプローチとは

次に、マーケットアプローチは、取引価格比較法とも呼ばれる手法です。例えば、M&Aにおける買収額や、不動産取引の場面で汎用されています。知的財産権の場合、マーケットアプローチは、類似する他の知的財産権の取引価格を参考に、自身が取引する知的財産権の価値を決定していく方法です。具体的には以下のような方法で実施されます。まず、上述の定性的評価の評価項目になっているような、知的財産権の権利範囲の広さ、権利の無効にされにくさや、知的財産権の技術分野などをリストアップします。そして、これらの特性に最も類似する他の知的財産権の取引事例を見つけ出して、自身の取引する知的財産権の価格を推定する方法で価値が算出されます。

例えば、中国などでは、知的財産権の取引市場が高度に発達しています。このため、そのような場面では、マーケットアプローチは有益な手法であると言えるでしょう。しかし、日本国内において、知的財産権の公開されたマーケットはほぼ存在していないため、日本の知的財産権について、マーケットアプローチを採用するのは困難が伴う可能性があります。

インカムアプローチとは

インカムアプローチとは、対象とする知的財産権から、将来得られるであろう利益を積算することにより、現在の知的財産権の価値を見積もる、というものです。ただし、将来の金銭価値は、金利などを考慮すれば、現在の金銭価値と等価にはなりません。このため、将来の金銭価値を現在の金銭価値に割り引いて、積算する、という計算手法が取られます。

インカムアプローチの弱点は、将来生じる利益を見積もることが容易ではない、ということです。将来生じる利益を見積もるためには、知的財産権に対応する事業の現在の市場規模と、そのシェア、現在の売上と、営業利益額等から、将来の事業見通しを予測し、その事業見通しに基づいて、将来の営業利益額を予測する、というプロセスをたどります。

なお、より正確な計算を行うためには、営業利益額よりも、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローなどの数値を利用することが好ましいと言われることがあります。また、EBITDA(利払前税引前減価償却前利益; Earning Before Interest, Tax, Depreciation & Amotization)を利用することが勧められることもあります。しかしながら、いずれにせよ、これらの数値を予測するのは容易なことではありません。

簡易的に、予想されるライセンス料額から、知的財産権の価値を見積もる方法もありますが(ロイヤリティ免除法)、いずれにせよ、将来の利益を正確に予測することは困難が伴うことが多いと考えられます。

どの価値評価手法が最も合理的か

このように多種多様な価値評価の手法が存在し、それぞれの手法で実際に算出される価格も異なってきます。このため、実際に、知的財産・知的財産権の価値評価を行う場合に、皆さんは、どの手法を採用すべきか、迷われることが多いようです。しかし、実際の知的財産権の価値評価の場面では、一つの価値評価手法のみに依存しないことが重要であるとも言われています。例えば、知的財産権の売買の局面を例にとって、実際に考えてみましょう。

ある特許権の売買が行われようとするときについて例示的に考えます。例えば、売り手がインカムアプローチにより売買価格を算定して提示した場合があるとします。このとき、買い手はコストアプローチにより売買価格を算定する可能性もあります。あるいは、売り手、買い手の双方が、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチのそれぞれで計算を行うこともありえます。この場合、買い手は、最も高く算出された評価額で、売り手は、最も安く算出された評価額で、売買価格を提示するかもしれません。さらに、売り手と買い手が、それぞれ複数の価値評価手法による計算結果を提示する可能性もあります。さらに、これらと定性評価の手法を組み合わせることすらあり得ます。

このように、価値評価手法というのは、あくまで、取引相手を理論的に納得させるためのツールである点に留意すべきです。このため、価値評価手法として、どの手法を採用しなくてはならない、というルールがあるわけではありません。現在、得られている情報を利用して、合理的に算出できるのであれば、自身の立場に応じて、その合理的に算出可能な方法を採用すればよい、ということになります。

結論として、知財価値評価において大切なことは、どのような状況においても知的財産・知的財産権の価値を評価できるように、さまざまな計算手法を理解しておくことにあります。交渉のツールは、多ければ多いほど好ましい、ということになるのではないでしょうか?


この記事を書いた人

腕を組んで壁によりかかる渡辺浩司の肖像

渡辺浩司 (Koji Watanabe)

東京知的財産コンサルティング事務所(Tokyo IP Consulting)代表弁理士。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了、同博士課程中退。2006年より弁理士。特定侵害訴訟代理業務付記。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。2014年にドイツ連邦共和国 Eisenführ Speiser・大韓民国YOU ME特許法人インターン。複数の大手特許事務所・特許法律事務所に勤務。都内弁理士事務所所長代理。独立行政法人日本貿易振興機構イノベーション・知的財産部出向。外資系設計会社財務・法務担当(役員ポジション)等を経て東京知的財産コンサルティング事務所設立。現在、プログラマーとしても活動中。主要取扱言語は、Web系言語全般、ruby、PHP、Python等。 


Reference

  1. 森下明, 「バリュエーションの教科書―企業価値・M&Aの本質と実務」, 東京経済新報社
  2. 渡辺浩司, 「知財価値評価とスタートアップ企業の知財戦略」, 月刊パテント, Vol 73, No. 4, p. 46-51, 日本弁理士会 (2020) [Link][JETRO’s Report][YouTube]
  3. ”IPR Valuation and IPR-related Strategies for Startups” , Confederation of Indian Industry (CII), New Delhi, Online, Jul. & Sep. 2020 [Link]
  4. 知的財産権を利用した経営戦略のススメ, インド知的財産研究会, 2021年8月[Link][Trailer]
  5. “Intellectual Property Valuation and Strategic IP Selection: An Income-Based Perspective on Firm Value Creation in Startups”, SSRN Working Paper (2026) [Link]

Disclaimer & Disclosure

  • この Webページはもともと日本語で作成されており、Google Translation API を利用したプラグインを使用して他の言語に翻訳されています。翻訳は参考のためにのみ提供されており、ここに記載されている意見や声明は元の日本語で解釈されるべきであることをここにご通知します。
  • このレポートは情報提供のみを目的として提供されており、特定の金融商品への投資を勧誘したり、それらの購入又は売却を推奨したりすることを意図したものではありません。 
  • このレポートにおける企業の経営戦略の説明は、投資、会計、税務、法律等に関するなんらの助言を構成するものとも解釈されるべきではない点にご注意をお願いいたします。したがって、このレポートを読んだ投資家又は事業者が、投資又は事業活動により如何なる損失を被ったとしても、東京知的財産コンサルティング事務所 (Tokyo IP Consulting) は一切の法的責任を負うものではありません。個別の投資、会計、税務、法律等のご相談は、対象地域を管轄する投資、会計、税務、法律等の専門家の助言を受けていただきますようお願い致します。
  • このレポートに記載されている意見や声明は、筆者の個人的かつ主観的な見解に基づくものであり、筆者の所属する組織の公式見解ではありません。さらに、企業の戦略を正確に評価するために最善を尽くしていますが、このレポートの完全な正確性を保証することはできません。加えて、このレポートに記載されている将来の予測が確実に実現することを保証するものでもありません。