プロセスイノベーションとは?

この記事に書いてあること

  • プロセスイノベーションとは、製品やサービスの作り方・提供方法を根本的に改善する取り組みであり、コスト削減、品質向上、効率化、スピードアップを実現する
  • 価格競争の中で生き残るには、製造・提供コストの削減と品質向上が不可欠であり、プロセスイノベーションにより、顧客満足度の実現と利益の両立が可能になる
  • 値下げ前の利益は企業のものとなり、利益確保と新たな先行投資が可能となるとともに、市場シェアの維持や競争優位性の確保にも貢献
  • 長期的なデフレ環境下でも、日本企業はプロセスイノベーションにより利益を確保しており、成熟市場において、プロセスイノベーションは企業の持続的成長に不可欠
  • プロセス改善には現場の知恵や経験が必要であるため、人的資本の活用や、AIやIoTなどのによる省力化も重要

目次

  1. イノベーションの5つの態様とは
  2. プロセス・イノベーションとは
  3. プロセス・イノベーションと利益率・回転率
  4. プロセス・イノベーションを実施することによるメリット
  5. 日本社会とプロセス・イノベーション
  6. 日本社会が抱える今後の課題
  7. 知財管理業務におけるプロセスイノベーション
  8. Tokyo IP Consultingの関連記事紹介
    1. プロセス・イノベーションが上場企業の経営指標に及ぼす影響
    2. 特許を「資産」に変える財務戦略|DCF法で最大化する知財ポートフォリオと分割出願の役割
    3. ITツールの活用による知財業務の効率化 | 多様なツールの役割を分離して設計するという考え方
    4. 知財業務を分解する | AI・RPAの正しい使い方と業務設計の原則

イノベーションの5つの態様とは

経済学者のヨーゼフ・シュンペータは、「経済発展の理論」の中で、経済発展にはイノベーションが必要であり、そのようなイノベーションを引き起こす取り組みとしては、5つの態様が存在する、と説きました。具体的には、シュンペータは、以下の5つのイノベーションが存在する、と説明しています。①新たな製品/サービスの提供(プロダクト・イノベーション)、②新たな生産方法の導入(プロセス・イノベーション)、③新たな市場への参入(マーケット・イノベーション)、④新たな資源の獲得(サプライチェーン・イノベーション)、⑤新たな組織の実現(組織イノベーション)。

一般に、これらの5つのイノベーションは、すべてが同時に起こるものではなく、製品開発や企業・市場の成長の段階に応じて、異なるタイミングで起こっていると考えられます。たとえば、プロダクト・イノベーションは、製品開発のごく初期の段階で起こっています。これについて、Apple社は、2007年にiPhoneという革新的商品を開発して上市しました。このような革新的商品の開発が、プロダクト・イノベーションの中でなされるものです。

イノベーションの態様具体的な説明
プロダクト・イノベーション新たな製品やサービスの提供。例えば、iPhoneのような革新的新商品の提供など。
プロセス・イノベーション新たな生産方法の導入。製品やサービスを生み出す工程や仕組みを大きく変えることで、効率や品質、コスト、製造・提供のスピードなどを改善していく。
マーケット・イノベーション新市場への参入。既存の市場に新たな価値をもたらしたり、まったく新しい市場を創出したりする革新的な取り組みのこと。
サプライチェーン・イノベーション新たな資源の獲得のこと。サステナブル素材の調達などが例示される。
組織イノベーション組織構造や取引関係の革新。自社内の組織改変に限定されず、協業体制の革新も含まれる。

これまでにない新製品を上市した場合、新製品の価格は比較的高めに設定されています。これは、先行投資や研究開発活動の成果として、製品に新たな付加価値が付与されているからでもあります。しかしながら、そのような新製品についてのマーケットが形成され、より多くの消費者が新製品を購入するようになる段階では、製品価格が低下していることがあります。このような過程で生じているイノベーションの一つがプロセス・イノベーションです。

プロセス・イノベーションとは

プロセス・イノベーションでは、製品やサービスの「作り方」や「提供の仕方」を根本的に変えていくための取り組みです。つまり、製品やサービスそのものではなく、それを生み出す工程や仕組みを大きく変えることで、効率や品質、コスト、製造・提供のスピードなどを改善していく取り組みです。もともと、プロダクト・イノベーションにより新たな製品やサービスが提供され始めた段階では、製品やサービスの価格が高額であったり、それらを販売・提供しても、企業が十分な利益を上げられなかったりする、という問題があります。

プロセス・イノベーションにより、商品製造やサービス提供過程のコストダウンや効率化が図られることにより、より安価に製品やサービスを提供可能になったり、より顧客満足度が高まったりすることが知られています。また、製品やサービスを提供する企業側も、利益を確保しやすくなり、その利益を利用して新たな先行投資によるイノベーションを起こすことができる可能性もあります。

プロセス・イノベーションと利益率・回転率

このようなプロセス・イノベーションは、競業事業者間での価格競争の結果、当然に生じるものです。特に、スタートアップ企業は、プロダクト・イノベーションによる新製品の開発による差別化を行い、売上と利益を確保しようと試みます。しかしながら、大企業や既存ビジネスを営む企業にとっては、「模倣」戦略や「同質化」戦略が経営戦略上最も効果的であるため、結果として、新製品・新サービス市場においては、価格競争が起こっていくと考えられます。

そういった、顧客を確保するための価格競争の中で生き残っていくためには、その製品やサービスの製造や提供に必要なコストを削減し、少ない時間でより多くの製品やサービスを提供し、これまでの手法よりもより高品質な製品やサービスを提供することにより、顧客吸引力を維持するとともに、内部利益を確保していく必要があります。そのような取り組みの一つが、まさに、プロセス・イノベーションと言えるわけです。

プロセス・イノベーションを実施することによるメリット

このように、プロセス・イノベーションは、企業が市場において生き残っていく上で、極めて重要な取り組みではあるのですが、最も重要なことは、プロセス・イノベーションの結果、製造コストや、サービス提供コストの削減に成功したとした場合、値下げがされるまでの間、それにより節約された利益が、プロセス・イノベーションを行った企業のものとなる、ということです。とりわけ、価格が高まれば、製品販売個数やサービス提供単位数が低下してしまう、という、経済学における一般的原則を踏まえれば、プロダクト・イノベーションにより、商品やサービス自体に付加価値を付与して値上げを実施したとしても、値上げそのものの効果として製品販売個数や、サービス提供単位数の減少が生じる可能性があります。一方、プロセス・イノベーションでは、一般に値上げを伴わないことが知られているため、プロセス・イノベーションを実施しても、製品販売個数や、サービス提供単位数を維持しつつ、製品製造コストやサービス提供コストの低減による、利益率の改善を実現できる可能性があります。

単に付加価値を高めた場合は、価格も上がってしまうが、原価を削減することにより、価格上昇を伴わずに利益率のみを高められる。

加えて、製品やサービスの提供にあたり、値下げ余地が確保されることにより、市場におけるシェアの維持を可能にする、協業事業者に対する優位性も維持できます。

日本社会とプロセス・イノベーション

日本社会は、バブル崩壊以降、30年近くの間、デフレの波に苦しめられており、その結果、物価上昇率は低い状態が続いていました。しかしながら、日本企業は、そのような中でも、プロセス・イノベーションを実施し、値上げをしなくても、利益を確保できる取り組みを継続してきたと考えられます。確かに、日本企業は、プロダクト・イノベーションのような革新的新製品、革新的新サービスの提供は苦手なのかもしれませんが、日本文化の素地が、海外から輸入した製品をより洗練させていく職人文化にあったためか、既存の製品、サービスをより低コストで製造・提供するためのノウハウは豊富に保持しています。そして、このような製品製造、サービス提供過程の効率化の過程こそ、市場の成熟・企業の成熟にとって必要なものであると考えられます。

陶芸工房の写真、2人の職人がろくろに置かれた粘土を整形している。

日本社会が抱える今後の課題

このように、日本企業は、製品やサービスの提供過程の効率化により、これまで、利益を確保してきました。しかしながら、持続可能な経済社会の実現において、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの両者を実施することが重要であることに変わりはありません。今後、日本企業が、どのようにして、新たな製品や新たなサービスを生み出すことができるのか、という点については、日本社会の成長という観点から注目される点です。

また、プロセス・イノベーションについては、優秀な人材の確保や、現場の人材の長期間にわたる経験が重要ともなります。少子高齢化の中で、人手不足が叫ばれて久しい日本社会において、これまでのプロセス・イノベーションに対する取り組みをどのように維持していくか、という点は、大きな課題になってくると考えられます。

こういった中で、AIやIoT技術の活用を通じた、各種プロセスの省力化は極めて重要となると考えられます。日本社会のIT化には遅れが見られるとも指摘されている中、どのようにして、日本社会や日本企業が変わっていくのか、という点については、今後ますます注目されるところです。

知財管理業務におけるプロセスイノベーション

知的財産管理の分野においても、プロセスイノベーションの導入は重要な意味を持ちます。特許出願、年金管理、ライセンス検討などの知財業務は、業務プロセスが整理されていない場合、情報が分断され、意思決定の遅れや不要な作業の増加を招きやすくなります。業務を整理し、情報管理や判断プロセスを効率化することにより、研究開発部門や事業部門との連携が容易になり、技術移転やライセンスなどの形で知的財産を活用する機会、すなわち「知財の流動化」が進みやすくなります。

また、企業の利益は一般に「収益から費用を差し引いたもの」であるため、知財業務に伴う管理コストや意思決定コストを抑えることができれば、同じ収益を生み出す知財活動であっても企業に残る利益は大きくなります。この意味で、知財管理におけるプロセスイノベーションは、単なる業務効率化にとどまらず、知的財産の活用度と経済的価値の双方を高める基盤となります。

Tokyo IP Consultingの関連記事紹介

プロセス・イノベーションが上場企業の経営指標に及ぼす影響

企業が技術開発や特許取得を行うことで経営指標は改善するのかを検証した記事です。この記事では、日経平均に含まれる食品企業のデータをもとに、特許の保有数と営業利益率・総資産回転率・ROAとの関係を分析し、イノベーションが企業の収益構造にどのような影響を与えるのかを考察しまていす。特に、製品の付加価値を高める「プロダクト・イノベーション」と、製造効率やコスト削減を実現する「プロセス・イノベーション」を比較し、企業が利益率の向上と事業効率の維持を両立するためにはどのようなバランスが重要なのかをわかりやすく解説しています。

特許を「資産」に変える財務戦略|DCF法で最大化する知財ポートフォリオと分割出願の役割

企業にとって特許は「権利取得のコスト」として見られがちですが、本来は将来の利益を生み出す経営資産として活用することができます。この記事では、特許の価値を将来キャッシュフローから評価するDCF(割引キャッシュフロー)という考え方を紹介しながら、特許が企業の利益を高める仕組みを解説します。特に、独自の機能やブランド価値によって売上を高める「プロダクト・イノベーション」と、製造や物流の効率化によってコストを下げる「プロセス・イノベーション」の両面から、知的財産を戦略的に活用することで企業価値を高める方法をわかりやすく説明しています。

ITツールの活用による知財業務の効率化 | 多様なツールの役割を分離して設計するという考え方

近年、AIやRPAなどのITツールの発展により、知的財産業務の効率化は現実的な選択肢となっています。こちらの記事では、知財業務を「判断が必要な業務」「繰り返し作業」「管理・責任を担う業務」といった役割ごとに整理し、それぞれに適したITツールを組み合わせることで業務効率を高める考え方を解説します。単に作業を自動化するのではなく、業務構造を分解して最適なツールを配置することで、コスト削減と判断品質の維持を両立させる形でのIT活用は、企業の競争力を高めるプロセスイノベーションの重要な例として位置づけられます。

知財業務を分解する | AI・RPAの正しい使い方と業務設計の原則

企業の知的財産は、単に特許や商標を取得するだけでは十分に活用されているとは言えません。本記事では、知的財産の管理方法や運用体制を分析し、企業の経営戦略とどのように結び付けるべきかを解説します。特許・商標の取得、維持管理、情報整理といった業務を体系的に管理することで、知財を単なるコストではなく競争力を支える経営資源として活用できるようになります。このように、知財管理の仕組みそのものを見直し、効率化と戦略性を高めていく取り組みは、企業の生産性を高めるプロセスイノベーションの一例として位置づけることができます。



この記事を書いた人

腕を組んで壁によりかかる渡辺浩司の肖像

渡辺浩司 (Koji Watanabe)

東京知的財産コンサルティング事務所(Tokyo IP Consulting)代表弁理士。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了、同博士課程中退。2006年より弁理士。特定侵害訴訟代理業務付記。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。2014年にドイツ連邦共和国 Eisenführ Speiser・大韓民国YOU ME特許法人インターン。複数の大手特許事務所・特許法律事務所に勤務。都内弁理士事務所所長代理。独立行政法人日本貿易振興機構イノベーション・知的財産部出向。外資系設計会社財務・法務担当(役員ポジション)等を経て東京知的財産コンサルティング事務所設立。現在、プログラマーとしても活動中。主要取扱言語は、Web系言語全般、ruby、PHP、Python等。 


Reference

  1. 渡辺浩司, 武井 健浩 ,「プロセス・イノベーションが上場企業の経営指標に及ぼす影響」, 月刊パテント, Vol. 75, No. 5, p. 78-84, 日本弁理士会 (2021) [Link][YouTube]
  2. 知的財産権を利用した経営戦略のススメ, インド知的財産研究会, 2021年8月[Link][Trailer]

Disclaimer & Disclosure

  • この Webページはもともと日本語で作成されており、Google Translation API を利用したプラグインを使用して他の言語に翻訳されています。翻訳は参考のためにのみ提供されており、ここに記載されている意見や声明は元の日本語で解釈されるべきであることをここにご通知します。
  • このレポートは情報提供のみを目的として提供されており、特定の金融商品への投資を勧誘したり、それらの購入又は売却を推奨したりすることを意図したものではありません。 
  • このレポートにおける企業の経営戦略の説明は、投資、会計、税務、法律等に関するなんらの助言を構成するものとも解釈されるべきではない点にご注意をお願いいたします。したがって、このレポートを読んだ投資家又は事業者が、投資又は事業活動により如何なる損失を被ったとしても、東京知的財産コンサルティング事務所 (Tokyo IP Consulting) は一切の法的責任を負うものではありません。個別の投資、会計、税務、法律等のご相談は、対象地域を管轄する投資、会計、税務、法律等の専門家の助言を受けていただきますようお願い致します。
  • このレポートに記載されている意見や声明は、筆者の個人的かつ主観的な見解に基づくものであり、筆者の所属する組織の公式見解ではありません。さらに、企業の戦略を正確に評価するために最善を尽くしていますが、このレポートの完全な正確性を保証することはできません。加えて、このレポートに記載されている将来の予測が確実に実現することを保証するものでもありません。