特許と収益性の関係|市場需要と事業への貢献から考える知財戦略

この記事に書いてあること

  • 特許庁の委託を受けて三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した調査では、特許権を保有・利用している中小企業で、営業利益率が高い傾向が示されています。
  • 個々の特許の事業上の価値は、市場需要、事業をカバーする権利範囲、技術的な代替可能性、発明がもたらす効果によって異なります。
  • 市場需要との接点が乏しい発明では、特許を取得できても、売上や利益への貢献が限られる場合があります。
  • 研究開発と特許への先行投資は、事業化の根拠と資金負担を確認し、定期的な効果測定に基づいて追加投資や見直しを判断することが重要です。

目次

  1. はじめに
  2. 特許権を保有・利用する企業は営業利益率が高い傾向にある
  3. 特許権が事業のどこをカバーしているかを見る
  4. 技術的な代替可能性と発明の効果を確認する
  5. 市場需要のない技術は特許だけでは収益にならない
  6. 包括的な権利取得を目的に投資を広げすぎない
  7. 根拠に基づいて先行投資し、成果に応じて見直す
  8. Tokyo IP Consultingの考え方
  9. まとめ

はじめに

特許を取得することは、技術による差別化を守り、事業の競争力を支える手段の一つです。特許権を保有・活用する企業と収益性の関係についても、公的な調査結果が公表されています。

一方、特許を取得した企業のすべてで、売上や利益が増えるわけではありません。同じ一件の特許でも、需要のある製品の中核を保護するものと、事業で使う見込みの乏しい技術を保護するものとでは、経営上の意味が異なります。

特許と収益性の関係を考えるには、企業全体の統計的な傾向を踏まえながら、個々の特許がどの事業を、どのように支えているかを見る必要があります。

特許権を保有・利用する企業は営業利益率が高い傾向にある

特許庁の委託を受けて三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施し、2019年に公表された「中小企業の知的財産活動に関する基本調査」では、特許権の保有・利用状況と経営指標の関係が分析されています。

この調査では、特許権を保有・利用している中小企業で、売上高営業利益率や総資産営業利益率が高い傾向が示されています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの公開資料でも、同調査の2015年から2017年までの3年平均として、特許権を保有する企業の売上高営業利益率は3.9%、保有しない企業は2.8%と紹介されています。

こうした結果は、特許を事業戦略の中で検討する意義を示しています。ただし、企業群の比較であり、特許を一件取得すれば営業利益率が一定幅上がるという意味ではありません。個別の投資判断では、技術と市場、権利と事業の対応関係まで確認することが重要です。

特許権が事業のどこをカバーしているかを見る

特許権の価値を考える際には、まず、製品やサービスのどの部分が権利によって保護されているかを整理します。

顧客が購入を決める主要な機能や、製造コストを左右する工程を保護できていれば、その特許は差別化や利益の確保に関わります。一方、事業の周辺部分だけを対象とする特許では、主力製品の競争力との接点が小さい場合もあります。

また、自社製品が特許発明を実施していることに加えて、競合企業が同等の価値を提供しようとしたときに、その権利がどの程度関係するかという視点も必要です。事業全体を漠然と「特許で守っている」と捉えず、売上や利益を生む機能・工程と、特許請求の範囲との対応を具体的に確認します。

付箋を貼ったホワイトボードを使って説明する人と、ノートパソコンを手元に置いて話を聞く3人が、オフィスで打ち合わせをしている様子。

技術的な代替可能性と発明の効果を確認する

同じ顧客ニーズを、別の技術や構成によって満たせるかどうかも、特許の事業上の価値を左右します。

競合企業が少ない負担で代替技術に切り替えられる場合、特許権が競争に及ぼす影響は限定的になり得ます。反対に、代替には性能の低下、大幅なコスト増、長い開発期間などが伴うのであれば、特許によって保護された技術の重要性は高まります。

発明がもたらす効果についても、従来技術との差を確認する必要があります。性能、品質、歩留まり、省資源化、使いやすさなどの改善が、顧客の購入理由や製造原価の低下にどうつながるかを整理します。

技術的に新しいことと、顧客にとって価値があることは一致するとは限りません。技術的な改善を、価格、販売数量、費用削減といった事業上の成果に結び付けて考えることが重要です。

市場需要のない技術は特許だけでは収益にならない

特許権が収益に貢献するには、その技術が使われる製品やサービスに、事業として成立する需要があることが重要です。

例えば、顧客が解決を求めていない課題に対する技術では、研究開発や出願が少なく、関連する先行技術が乏しい場合があります。その結果、特許取得のハードルが比較的低くなることも考えられますが、それによって市場での需要が生まれるわけではありません。

購入する顧客がほとんどいなければ、その技術を特許で保護しても、売上向上への効果は期待しにくくなります。特許を取得できたという事実だけで、市場性まで確認できたと考えることはできません。

研究開発の早い段階から、想定顧客、課題の重要性、既存の解決方法、支払意思、販売経路などを確認する必要があります。顧客へのヒアリングや試作品の評価、実証実験、有償導入といった情報を蓄積し、技術の有用性と需要の見込みを具体化していきます。

包括的な権利取得を目的に投資を広げすぎない

事業の中核技術と、その周辺技術を組み合わせて保護することには意味があります。しかし、包括的に特許権を取得すること自体を目標にすると、事業への貢献が小さい領域まで研究開発や出願を広げるおそれがあります。

研究開発費に加え、出願、審査対応、外国出願、権利維持には継続的な支出が伴います。権利の数や対象国を増やすほど、投資回収に必要な収益も大きくなります。

優先すべきなのは、事業で使う予定の技術、顧客価値を左右する技術、競合による模倣や代替への対応が必要な技術です。周辺技術への投資も、それが中核事業の保護や将来の展開にどのような役割を果たすかを説明できる範囲で検討します。

出願件数の増加だけを成果指標にせず、事業との対応関係と費用負担を見ながら、投資の優先順位を定めることが重要です。

根拠に基づいて先行投資し、成果に応じて見直す

研究開発や特許取得は、将来の需要や競争環境を見込んで行う先行投資です。成果が確定する前に判断するからこそ、投資を実行する根拠と、次の判断に使う情報を明確にしておく必要があります。

投資前には、想定する市場と顧客、解決する課題、技術的な実現可能性、競合・代替技術、事業化までの期間、必要資金を整理します。その上で、試作、顧客評価、実証、有償導入などの段階ごとに、追加投資を判断するための目標を設定します。

効果測定では、対応製品の売上や利益率だけでなく、採用率、価格の維持、製造費用の削減、ライセンス収入など、特許や技術が果たす役割に応じた指標を選びます。研究開発費や権利取得・維持費も合わせて確認し、想定していた成果と比較します。

得られたエビデンスを踏まえ、有望な領域への追加投資、開発方針の変更、出願国の絞り込み、権利維持の見直しを判断します。成果が出るまでの時間も考慮しながら、当初の計画を続ける根拠があるかを定期的に確認することが大切です。

Tokyo IP Consultingの考え方

Tokyo IP Consultingでは、特許の価値を、件数や取得の成否だけで判断することは適切ではないと考えています。市場需要、技術的な優位性、権利の保護範囲、収益を生む仕組みをつなげて評価することが重要です。

具体的には、事業別の売上高や利益率、研究開発費などの財務・事業データと、製品・技術・特許の対応関係を組み合わせて検討します。これにより、どの投資が競争力を支え、どの領域で見直しが必要かを考えるための材料を整理できます。

将来の可能性を見込んだ投資には、一定の不確実性が伴います。その中でも、判断の根拠を明確にし、実績に応じて配分を見直すことで、研究開発と知財への投資を、事業価値の向上につながる形で設計することが大切だと考えています。

まとめ

特許権を保有・利用する中小企業では、営業利益率が高い傾向を示す調査結果があります。その傾向を個々の企業の戦略に生かすには、特許が需要のある事業のどこを保護し、代替技術との関係でどのような優位性を支えているかを確認する必要があります。

市場需要と技術の効果を確かめ、必要な権利に投資し、その成果を測定して次の判断につなげることが重要です。研究開発、権利取得、事業化、追加投資を一連の意思決定として捉えることが、特許を経営成果につなげる基盤になります。


この記事を書いた人

腕を組んで壁によりかかる渡辺浩司の肖像

渡辺浩司 (Koji Watanabe)

東京知的財産コンサルティング事務所(Tokyo IP Consulting)代表弁理士。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了、同博士課程中退。2006年より弁理士。特定侵害訴訟代理業務付記。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。2014年にドイツ連邦共和国 Eisenführ Speiser・大韓民国YOU ME特許法人インターン。複数の大手特許事務所・特許法律事務所に勤務。都内弁理士事務所所長代理。独立行政法人日本貿易振興機構イノベーション・知的財産部出向。外資系設計会社財務・法務担当(役員ポジション)等を経て東京知的財産コンサルティング事務所設立。現在、プログラマーとしても活動中。主要取扱言語は、Web系言語全般、ruby、PHP、Python等。 


References

  1. 平成30年度 中小企業等知財支援施策検討分析事業「中小企業の知的財産活動に関する基本調査」報告書 [Link]
  2. 企業知財活動の本質再考 -リソース制約下における知財価値創出の考察- [Link]
  3. スタートアップの資金調達に知的財産権の活用を(前編)デット・ファイナンスに向けて果たしうる役割とは(世界、日本) [Link]
  4. スタートアップの資金調達と知的財産権の役割 [Link]

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